雑草魂

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青年劇場「雲ヲ掴ム」観劇

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中津留章仁氏の新作を観てきた。今回も素晴らしい。というか、昨年ベストワン(※私ランキング)の「そぞろの民」と対になる力作だ。

プログラムを見ると、今作についての作者評は「凡庸」とのこと。確かに「荒唐無稽」だった前作トラッシュマスターズ「猥り現」とは打って変わって、地に足のついた登場人物たち。もちろんここでいう凡庸というのは、芝居の内容のことではなく、この国に圧倒的多数存在する「凡庸」な人たちの葛藤や矛盾を描いた話だということである。

舞台は、家族経営の零細町工場。親子二代に渡って、戦車の部品を製造し、自衛隊に納品してきた。他工場には製造できない高品質の納品をしてる自負と国の仕事を請け負っているという誇りで操業してはいるが毎年の国の防衛予算に左右され、資金繰りは火の車、高齢技師から若手への技術継承もままならない。そこへ「良いお話があります」と四菱重工の担当者が防衛装備庁職員と国会議員を連れてやってくる…。

中津留作品は、このように筋書きをまともに書くと、地味過ぎて、何が面白いのか全くわからない。しかも今回は老舗新劇への書き下ろしということもあって、登場人物の年齢も高く、もういぶし銀のような渋さだったのだが、このいぶし銀の上で炸裂する討論劇と人間ドラマが秀逸なのである。

戦車の部品を作る人たちであるからして、いわゆる「保守」な家族たちである。自分たちの生活のために戦車の受注は増えて欲しい、しかし、かといって戦争をしたい訳ではないのだ。平和のために一役かっているとさえ考えている。

儲かっているわけでもないのに家業が原因でいじめられたり、自分たちの関与した戦車が戦争で人を殺すことがないように「神棚」に毎日手を合わせてから仕事をする息子。二元論では答えの出せない矛盾をはらんだ生活がある。

日本を守る戦車だと思って納品したものが、中東でのテロに使用されたらしき映像を見て、抑止力のためではなかったのかと衝撃を受ける家族たち。納品した部品がどの国に輸出されるかは特定秘密にあたり下請けには情報開示できないという武器商人。

戦争の道具を作ることに異議を述べる大学生に対し、「きみの言葉は美しい。正論だ。しかし、正論だけでは暮らしていけないんだということを理解して欲しい」と述べるシーンも印象的だった。大学生は折れ、家族たちは戦車の部品の増産を選ぶ。

誤解はないとは思うが念のため、中津留氏は、この家族とは逆の立場にシンパシーをもつ作家である。しかし、綿密な取材を重ねた上で、敢えてこのような家族にスポットライトをあてる芝居を作ることにより、短絡的になりやすい私達に現実の複雑さと格闘する想像力を提供してくれている。オススメ。

 

青年劇場「雲ヲ掴ム」(作・演出 中津留章仁
2016/4/21-30 @紀伊國屋サザンシアター
上演時間2時間45分
http://www.seinengekijo.co.jp/s/kumo/kumo.html