雑草魂

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燐光群『くじらの墓標 2017』観劇

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元水産会社の廃倉庫に住む青年の婚約話を契機に、20年離散していた兄弟が再結集し、一族の秘密が明らかになっていく物語。
初演('93)も再演('94)も観ている。記憶ではあまり好みの作品というわけではなかったのだがしかし、23年ぶりに観た本作は面白かった。

23年経って、私はようやくこの芝居の本質を理解したのかもしれない。

夢か現か、一人の等身大の役者に巨大なシロナガスクジラの姿を見、ありふれた木の机に乗って繋がったロープを懸命に引く役者達の姿に大シケで荒れ狂う大海原を見る、演劇の醍醐味。

そして実力派の安定した演技で楽しませながらも、実は、この作品の幹は、《個人》《家族》《血縁》《婚姻》《子孫》《村》《国》などの在り方について今一度考えることを私たちに促しているのだ。

「俺たちみたいなのを生かしておいてくれるなんて、この国は…いい国、だ」

「いい国、だ…」(※うろ覚え)

もちろん字面通りの意味ではない。 微かな表情のニュアンスとトーンの変化、そして間合い。円熟味を増した役者の台詞術は素晴らしい。

初演に出ていた役者が5人出ていて、うち4人が同じ役で、タイムスリップしたかのような気持ちになった。いい役者というのは、実年齢に関係なくいくらでも若返りも老け役もできるものなのだ。