TRASH MASTERS「不埒」観劇
盛り込み過ぎでは?と感じるくらいに次から次へと提起される議論に巻き込まれてゆく密度の濃い2時間半。全く飽きさせない。中津留氏の構成力が観る度に確実に進化している。
役者も素晴らしい。
前半は川崎初夏さんのなめらかな壊れっぷりに惚れぼれ。この人の気だるい気品は実に良い。岩下志麻みたいな腹の座った女優さん。
後半はカゴシマジローさんの時にクスリと笑わせながらもまっすぐな説得力と熱量に好感を持った。
誤解を恐れずに言えば、今回は「ワイドショー」のような芝居だった。
同僚を連れて帰宅した夫の会話はまるでプロジェクトXのようだし、粉飾決算をした大手とは東芝を彷彿とさせるし、夫の不倫を責める妻は松居何某を連想させる。
実に観やすい。なぜなら入口は、私達のよく知っているステレオタイプの人物やドラマ。
そして、そこから「では、今この芝居を観ているあなたは賛成なのか?反対なのか?どう思うのか?」容赦無く観る者の心に切り込んでくる。これぞ中津留脚本の醍醐味。
印象的なやりとりがあった。(うろ覚え)
夫「(鉄道の高架化反対の)運動にはあまり関わらないほうがいい」
妻「どうして?」
夫「政治的だと思われるから」
妻「どうして政治的だと思われたらいけないの? 」
夫「出世に影響する」
妻「どうして? むしろ私よりもあなたの方が余程政治的だと思うけど。」
夫「どこが?」
妻「だっていつも"日本の経済は〜" "景気回復に我が社は貢献〜"とか言ってるじゃない」
夫「それは政治的なのか?」
妻「政治でしょ」
夫「俺が言う政治的な人間とは、何でも批判していつも反対するやつらのことだよ」
妻「……批判することが政治的なの?」
私は演劇ファンというより、中津留ファンなので、毎回この劇団を追っかけてはいるが、私の友人知人でこの小劇団を他に観に行く人もまあいないと思うので以下、ラストシーンのネタバレ。
ラストシーンは、鉄道高架への抗議について一室で話をしているところへ、機動隊員が突入し、あなた方は建設中の高架を爆破する恐れがあるゆえ、テロ等準備罪で逮捕すると告げる。
「この国は狂っている」
しびれるラストシーンだった。
みんなも観たらいいのに。 (とりあえず。あとで加筆推敲するかも)