「わたしは、ダニエル・ブレイク」(I, Daniel Blake)(ケン・ローチ監督)
素晴らしい作品だった。特に中盤からラストにかけてのケン・ローチ節の炸裂っぷりが凄まじい。 ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回してまでこの作品を撮った理由が痛いほど突き刺さってくる。
病に倒れた老労働者はどのように生計を立てて行けば良いのか? 貧しいシングルマザーが電気代を払うため子供に靴を買ってやるため、何の仕事に就くか?
弱者の味方ではなく制度の味方でしかない、福祉事務所の役人たちの官僚的な対応。たらい回しに「怒り」がこみ上げる。
厳しい現実に追い詰められて行く彼らにハッピーエンドは用意されていない。
解決策が示されているわけでもない。救いはない。しかし、人肌の温もりの感じられる、「あたたかい」映画である。
最も好きなシーンは、ダニエル・ブレイクが福祉事務所の壁にスプレーでメッセージを書き、人々が応援するシーン。
「I, Daniel Blake」と書いたダニエルを連行しようとする警官たちに人々が「Who are you? Who are you?」とコールするのにも溜飲が下がる。さすがケン・ローチ。私もここで拍手したかった。
そして、何と言っても肝はラストシーンの手紙の言葉。 ネタバレになってしまうのでここには書かないがとにかく素晴らしい。(そこまでに既に泣いていたけれど)私の涙腺はここで完全に崩壊した。もう号泣。滝。
「I, Daniel Blake」という映画のタイトルとそしてラストシーンの手紙が全てを物語っている。 DIGNITY(尊厳)を持って生き続けることが難しい世の中への怒り。
ステファン・エセルが「怒れ! 憤れ!」と私たちにメッセージを送ったように、80歳の巨匠も私たちに強いメッセージを送っている。
【あらすじ】 イギリス北東部ニューカッスルで大工として働く59歳のダニエル・ブレイクは、心臓の病を患い医者から仕事を止められる。国の援助を受けようとするが、複雑な制度が立ちふさがり必要な援助を受けることが出来ない。悪戦苦闘するダニエルだったが、シングルマザーのケイティと二人の子供の家族を助けたことから、交流が生まれる。貧しいなかでも、寄り添い合い絆を深めていくダニエルとケイティたち。しかし、厳しい現実が彼らを次第に追いつめていく。